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「株が現金より運用成績悪い」異常が示す予兆


景気悪化の予兆となるサインが出ている(写真:NicoElNino/iStock)

アメリカで、2年債の利回りと5年債の利回りが逆転し、景気悪化の兆しではないかと心配されている。
いわゆる短期金利が長期金利を上回り、イールドカーブ(利回り曲線)が右肩下がりとなっている。こうした長短金利逆転=逆イールドは、「市場関係者が将来的に金利が下がるとみている場合に起こる現象」(野村証券・証券用語解説集より)であり、これまでITバブル崩壊や不動産バブル崩壊、あるいはリーマンショックの前に見られた。逆イールドが起きてから2~3年後には景気後退が始まっている。
そういう意味では、金利が与える経済への影響は極めて大きいのだが、ここにきて「アメリカの投資環境に異変が起きている」とアメリカのメディアが報道している。たとえば、大手経済メディアの「ウォールストリート・ジャーナル」は、「市場の乱高下でキャッシュの魅力が増している」と報道した。

今後、取るべき投資行動とは

キャッシュというのは、現金そのものや現金同等商品のことで、銀行預金や預金証書(CD)、半年以内に償還を迎える短期債券などがこれに相当する。金融商品のパフォーマンスを見ると、通常の投資環境では株式や中長期の債券のほうが、キャッシュに比べて圧倒的に高い運用益を上げているのだが、2018年はこのままいけばキャッシュのほうが結果的に高いパフォーマンスを稼ぎ出しそうだ。
今後、日本でもいつかは金利が上昇する可能性がある。全財産をタンス預金にしておく人はいないと思うが、将来の金利上昇に備えて、どんな投資行動を取ればいいのか。この1年間の運用成績などをチェックしながら、金利上昇が予想される金融市場では、どんな投資行動を取ればいいのか考えてみたい。
今年、キャッシュ同等物のパフォーマンスが株式や債券を上回れば、1992年以来28年ぶりのことになるそうだ。こうした背景には、アメリカの中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)の政策金利引き上げがある。2016年11月に金利の引き上げを再開して以来、0.25%ずつとはいえ、すでに7回の利上げが行われ、この12月中旬のFOMC(連邦公開市場委員会)で、さらなる追加利上げが決まれば、2年で2%金利が上がったことになる。

2018年、年初から上がったもの、下がったものは?

金利上昇の影響を受けて、ニューヨーク株式市場は大きく乱高下し、 アメリカ債などの債券価格も下落(金利は上昇)。さらに、金でさえも2018年は7%(金先物、COMEX)前後下げ、本来なら景気拡大局面では上昇するはずの原油価格までもが大きく下げた。昨年まで絶好調だった仮想通貨のビットコインも、ピーク時から8割も下落している。
ウォールストリート・ジャーナルによると、アメリカでキャッシュの指標として知られている「S&Pアメリカ債3-6カ月指数」の年初来リターンは1.7%。この1.7%というパフォーマンスを上回る投資商品はイスラエル株やブラジル株、インド株ぐらいで、商品市況でもココアぐらいしか上昇していないそうだ。
それだけFRBの金利引き上げの威力は大きかったと見るべきだろう。
もともと資産運用の鉄則は、株式や投資信託(ファンド)、そして中長期債券などにバランスよく分散投資して長期運用を目指すのが基本だ。世界的に見ても、それが資産運用の鉄則と言ってもいい。
とりわけ、アメリカでは「株式に勝る運用先はない」と長い間信じられてきた。国民の多くが、金融機関やファイナンシャルプランナーなどのアドバイスに沿って、銀行預金ではなく株式に投資してきた。銀行預金よりも、株式や長期債券に分散投資することで資産を形成するのが常識なのだ。
その鉄則が通用しないほど、2018年の投資環境は異常だった、ということだ。実際に、年初来の運用益(パフォーマンス)で見た場合、世界の株価指数を算出している「MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)」によれば、次のような結果になっている(2018年11月末現在)。

<世界の株式市場全体指数>
●MSCI-ACWI(オール・カントリー・ワールド・インデックス)……-2.55%
●MSCI-World(全世界市場)……-1.20%
●MSCI-Emerging Market(新興国市場)……-12.24%

ちなみに、各投資商品の年初来のパフォーマンスを見てみよう。

<上昇しているもの、過去1年間、2018年11月末現在>
●インドSENSEX……+9.2%
●ブラジルボベスパ……+24.4%
●REIT(グローバル)……+2.3%

<下落しているもの(左が年初、右が直近、単位省略、12月7日現在、筆者作成)>
●NYダウ平均……24824.01→24388.95(-1.8%)
●S&P500……2695.81→2611.08(-3.1%)
●ナスダック……7006.898→6969.25(-0.5%)
●日経平均株価……23506.33→21678.68(-7.8%)
●中国上海株……3348.325→2605.89(-22.2%)
●ハンセン指数……30515.31→26063.76(-14.6%)
●WTI先物……57.81→52.13(-9.8%)
●NY金先物……1342.3→1254.00(-6.6%)
●ビットコイン(ドルベース)……13480.01→3400.00(-74.8%)

言うまでもないことだが、指数がすべてを表しているわけではない。それぞれ個々の銘柄によっては大きなパフォーマンスを上げているものも当然ある。ファンドなども、市場が下落していても大きな利益を上げているものも数多くある。

AI(人工知能)も2018年は敗者だった?

とはいえ、市場がこれだけ大きく乱高下したことで、投資環境の変化は否定できない。2018年は、投資環境にとっては大きな転換期だったと言っていいだろう。とりわけ、アメリカの「FAANG」に代表されるハイテク企業は大きく乱高下した。
FAANGというのは、フェイスブック(FB)、アマゾン・ドット・コム(AMZN)、アップル(AAPL)、ネットフリックス(NFLX)、アルファベット(GOOGL)の5大ハイテク企業のことだが、各銘柄ともに年初来のリターンを見ると、20~40%程度下落している。これまで、株式市場を牽引してきた代表的な銘柄が大きく下げた形だ。
要するに、2018年の金融市場をざっくりと見れば、素材や通信サービス、エネルギーといったセクターを中心にアメリカの株式市場が大きく下落し、さらに金利の引き上げで債券価格も下落し、金や原油といったコモディティーも値を下げた。投資環境として目立ちはしなかったが、勝者は誰もいなかった。そんな1年だったと言っていい。
実際に、資産運用ではプロ中のプロであるヘッジファンドが、今年は大きく負け越している。とりわけ、コンピューター(AI)によるプログラム売買を得意としている「マネージド・フューチャーズ」などは、人間のファンドマネジャーが中心になって相場の投資判断を行う「グローバルマクロ」よりもひどい負け方をしている。
モルガン・スタンレー・プライムブローカレッジ・グループのリポートでは、世界の株式ヘッジファンドの年初来リターンの平均は-5.9%(10月29日現在)となっている。とりわけ、10月の株価急落後は過去7年で最悪のパフォーマンスとなっている。
キャッシュが注目されるのも当然と言っていいだろう。わずか1.7%であっても、確実に入ってくる可能性が高い収益のあるキャッシュは、いつまた暴落するかわからない株式やファンド、コモディティーよりも魅力的と言える。どこに投資してよいかわからない状況――それが現在の投資環境と言っていいだろう。

銀行でさえ「運用難」に直面している日銀の金融政策?

では、日本から見た投資環境はどうなっているのだろうか。
2018年の投資環境が世界的に異常だったことは、さまざまな要素から確かだ。通常の金融市場であれば、株式市場や債券市場が下落した時には、円高やスイスフラン高になって、アメリカドルや新興国通貨は下落する。
実際に、11月末現在の対円での為替レートを見てみると、トルコリラ(-24.2%、過去1年、以下同)を筆頭に、ブラジル・レアル(-14.6%)、ロシア・ルーブル(-12.1%)、スウェーデン・クローナ(-7.2%)と大きく下落。その一方で、上昇したのはニュージーランド・ドル(+1.5%)ぐらいしかない。
ドル円に至っては、この1年間で1ドルあたり10円以下の変動幅しかなかった。これはかなり珍しいことで、ユーロやイギリスポンドもこの1年で大きく動いたとはいえ、5%以下の変動幅しかない。FX(外国為替証拠金取引)市場が低迷だったと言われるのも無理のない話だ。
通常であれば、ドル下落に伴って原油価格や金価格が上昇していくのだが、金価格はここにきてやや値を上げているものの、原油価格は逆に値を下げている。
さらに、ブラジル株やインド株が上昇していても、通貨ではマイナスになっているため、実質的に相殺されてあまり高い運用益は出ていない。少なくとも、日本円ベースで見ると2018年は海外の株式では大きな成果は得られていない、と見ていいだろう。
では、日本は銀行預金や日本国債などで「現金、現金同等物」の成績はどうだったのか。言うまでもないが、日本ではアメリカのような現象が起こる兆しは微塵も見えていない。日本銀行が、相変わらずマイナス金利政策を続けており、株式やETF、REITを購入するなどの量的緩和政策はいまも継続されている。
日本国債に至っては、もはや限界に近い水準まで日銀が買い上げている。地方銀行が、過去に保有していた比較的利回りの高い国債が償還を迎え、買い替えることができずに滞留する資金がすでに4兆円に達するとも報道されている。銀行でさえも、運用難の時代を迎えているわけだ。
ちなみに、日本の地銀が抱える有価証券の含み益が、ここにきて大きく減少。金融庁の発表では、2016年3月末に2.6兆円あった含み益は、18年3月末には1兆円にまで減少している。

「運用難」が続く2019年、投資先をいかに見つけるか

さて、問題は運用難だった2018年に次いで、2019年はどんな投資環境になるかだ。逆イールド現象が出たことで、景気の先行きは不透明になった。加えて、アメリカの金利はまだ上がりそうだ。
FRBは、政策金利の引き上げを19年に3回、20年に1回行うと宣言している。その想定に基づいて考えれば、短期債券や銀行の定期預金などのキャッシュはさらに高いパフォーマンスが期待できそうだし、株式市場は逆にさらなる下落が想定される。
アメリカの株式市場が下落すれば、アメリカドルも売られて円高となり、日本株も下落するのがこれまでの想定シナリオなのだが、最近は「高金利通貨」となっているアメリカドルが下落しないため、アメリカ株に比べて日本株は下落しにくい状況が続いている。
もっとも、アメリカの長期金利(10年物国債)は、現時点(12月7日)では株価下落の目安と言われている年3%の水準を割り込んでいる。その背景には、金利の先物市場などがすでに2019年のFRBの利上げに懐疑的になっているからだと言われる。今後も、政策金利の上昇が続けば間違いなく、金利が上昇して株価が下落することになるわけだが、アメリカ経済を取り巻く投資環境は不透明感が増している。
その背景には、90日しか猶予のない中国との貿易戦争、ロシア疑惑や中間選挙大敗によって生じるトランプ政権の不安定さなど、問題山積だ。さらに、3月には期限を迎える「ブレグジット(イギリスのEU離脱)」も、イギリス下院で交渉案が否決されれば6000兆円のデリバティブが不安定になると、イングランド銀行も警告している。トランプ政権も2019年には絶体絶命のピンチを何回か迎えそうだ。
再びリーマン級の不況がくれば、FRBの利上げはストップする。そう考えると、アメリカはキャッシュだけが有効な投資商品とも言えなくなる。多様な投資対象を想定しておく必要がありそうだ。
その一方で、日本も相当不安定な1年になりそうだ。アメリカと違って、金利が上昇する気配はないから、キャッシュは相変わらず「当面の元本割れなし」という以外にメリットはない。投資商品としては魅力がなく、想定外の円安やインフレには対応できない。
反面、徐々に日銀が出口戦略をはじめて、日本の金利も上昇局面になれば、アメリカのようにキャッシュがその年の投資商品として注目されるようなことになるかもしれない。しかし、2019年は世界経済全体が景気減速を予測されており、対米貿易交渉や消費税率アップといったさまざまなイベントも待ち構えている。

日本でも多様な投資先を模索する時代に

また、世界経済が減速すれば日本経済も減速する。2019年はIMF(国際通貨基金)が貿易戦争や保護主義などを理由にアメリカの経済成長率を下方修正している。アメリカの景気減速は世界全体の景気減速を招く。日本も当然、その準備が必要だ。
とはいえ、残念ながら日本が他の国と異なるのは、日銀には「打つ手」がないことだ。2018年には、出口戦略を実施して景気の減速の準備をしなければいけなかったのだが、景気拡大を最優先して、マイナス金利、異次元金利をかたくなに続けてしまった。
世界中が移民排斥に動くなかで、日本は移民受け入れ促進を法制化したのと同様、日本の政策のタイミングはつねに「時遅し」なのかもしれない。
日本の投資環境で、キャッシュに魅力を感じられる日は当面くる気配はない。そういう意味では、アメリカ同様に株式や債券に代わる多様な投資先を見つける時代を迎えている、と言ってもいいだろう。
もっとも、投資先の多様化と言っても、金やプラチナ、絵画、ヴィンテージワインといった発想では難しいかもしれない。日本ではまだ普及していない「プライベート・エクイティ」をはじめとして、ヘッジファンドの中でも金融市場の動きにあまり左右されない「マーケット・ニュートラル」、あるいは、海外の格安な株式や不動産といった発想の転換が必要なのかもしれない。

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